17.リハビリ再開!


 車椅子で高校を卒業し、高校生活はあっという間の一年間でした。

 卒業後はリハビリ再開です。リハビリを再開する為に訓練施設に入所することになりました。高校って卒業式前に2週間程自由登校ってあるでしょ。その自由登校と同時に入所したんです。

 初めての施設で緊張しながら、と言いながらも入院中同室だった方、入院中に訓練が一緒だった方等もいて入所者の方とは溶け込め易かったと思います。

 施設では、男性女性の二人の担当が付きます。そして、介護は同性介護。当時の病院は看護師がすべて介護をしてくれるので異性介護ですが、施設は同性介護が主流のようです。

 おもしろい話なんですが、私って5才で父親を亡くしているでしょ。それからずっと母子家庭でしょ。子供は保護者同伴とか、必ず親と一緒じゃないですか。母子家庭だから女性と一緒ですよね。行政の「母子家庭激例会」みたいな旅行に行った事がありますが、すべて周りは女性。家には父親がいないので身近に男性がいないんですよ。一番身近な男性は毎日顔を合せる学校の先生ですからね。なので、男性より女性の方が取っ付き易いんです。習慣って面白いと言うか恐ろしいと言うか。で、介護が同性介護でしょ。なんか、異様でしたね。

 しかし、逆の人もいますよね。「同性じゃなければ異様だ。」みたいにね。女性の産婦人科の受診に似ている感覚ありませんか?「先生が異性だと恥ずかしい。いや、私は同性の方が嫌」って。

 再び、訓練が始まりました。本格的な訓練です。入院患者としての基礎的なものは入院中にやりましたので、さらにハードな訓練です。

 私達のような怪我は最低でも2〜3年はミッチリと訓練しないとダメですね。「自律という社会復帰」は程遠い。私は一年という期限があり、必死でした。他の方は期限が無い人が多く、マイペースで訓練していましたが、私には時間的にも余裕はありません。

 朝の6時30分から着替えの自主訓練、そして昼間は訓練士に従いの訓練時間、夕食後は就寝準備までの夜7時まで力を付ける為の自主訓練、そして、ベッド上で就寝準備自主訓練、夜9時就寝。「朝起きてから寝るまで」すべてが訓練でした。しんどかったですよ。でも、運動選手でしたから鍛えることは好きなので、それと辛い練習を沢山して来ましたからね。訓練自体を「やりたくない」とは思いませんでした。しかし、「現役の練習の時の方が楽」でした。リハビリってきついですね。

 訓練は理学療法、作業療法、体育でしょうか。入院中は理学療法がメインでしたが、この怪我の場合はある時期を過ぎると理学療法より作業療法が重要になります。それと、体育。社会復帰に必要な事は、「日常生活に沿った体力をつける事」なのです。

 作業療法は、生活にそった細かい訓練です。体育は体力。仕事という社会復帰をするには細かい作業が出来ないと話になりません。フロッピーひとつ取り出す事が出来なければ仕事にはなりませんし、子供にミルクを与えるにもビンを支えなければなりません。抱っこするにも支えているパワーを持続出来なければ子供を落としてしまいますし、薬を飲ませるにも大変です。

 袋を開けて子供の口にいれてあげて、飲ませてあげる。ウンチをしたらお尻を拭いてあげる。細かい作業と気力と体力。作業療法と体育訓練が重要なのです。今、あの時の訓練が生きています。これをお読み頂いている訓練中の患者さん!「がんばるんだぞぉぉ。必ず、明日は来る」んです!

 時は流れ、季節は夏。プール訓練も始まりました。身体の3/4が麻痺している身体でのプールです。不安と恐怖。水の中で苦しんでも気付かれなかったら死にます。水中眼鏡を付けてもらい口にはシュノーケル。シュノーケルの先に鈴をつけます。つまり水面から出ている部分に鈴を付け、苦しんだら首を振る。音で周囲の人間が気付く。そんな感じで訓練します。背泳ぎもします。この場合はシュノーケルはしません。で、面白いんです。私は筋肉質でしたからガリガリに痩せました。筋肉はあっという間に落ちちゃいます。つける時は一生懸命練習しないと付きませんが、落ちるのは3日も麻痺しているとすべて無くなります。ガリガリは骨と皮です。だから沈むんです。

 同時期に訓練をしていたひとつ上の女性がいました。ちょっと、「ぽちゃ」です。太ってはいません。で、その人は浮くんです。背泳ぎをしていると水面からお腹だけがクジラのように出ているんです。脂肪があると無いとではこうも違うんですねぇ。面白いものです。

 いつもの様に、プール訓練です。

「お〜い濱宮、今日は飛び込もう!」と訓練士。

「えっ!?飛び込めるはず無いでしょ。」と私。

 そんな私の訴えもそ知らぬ顔で、上半身と足を持たれ、いざスタート地点へ。

「ちょっ!ちょっと!マジっすかぁ?」

 他の人のそんな姿見たこと無い!のに・・・。

「それ1、2、3!」と同時にプールへ投げ込まれました。

 私の身体は水中深く、沈んで行きます。もがきながら周りを見ると「私がもがいている泡」だけが楽しそうに私に絡みます。私の呼吸を止める我慢も限界に近づきます。

「うっぅぅ〜苦しい・・・」と、その瞬間・・・。

第17話完