18.障害者のプライバシーと医学的な個性


 「ドボン!」

 誰かが飛び込んだ音が、水中でも水を伝わり聞こえました。私は慌てて何事かと思い横を見ました。私からは下半身だけが見えます。近づいてきます。そうです。訓練士が頃合いをみて飛び込んできたのです。訓練士は私の上半身を抱え水中から顔を出させると言いました。

「どうだぁ〜。たまには飛び込みも懐かしいだろ?」だって。

 順大出身の訓練士なんですよ。しかも、陸上をやっていて、私の恩師の大学の後輩。だからね、体育会系の乗りですね。でも、「重度障害者をプールへ投げ込むかぁ〜?」ねっ、皆さん。



 麻痺した腕には水の抵抗が元気な頃より増します。力が無くなっているから余計そう感じるんです。で、水泳は筋力アップと呼吸器の訓練に最適なんです。標準以上あった肺活量が怪我をして900ccですからね。驚きでしょ。呼吸の為にも良い訓練なんです。ある日、こんな事がありました。

 水中眼鏡をしてシュノーケルで泳いでいたのです。すると・・・「プカプカ」と何かが漂います。その物体は固形物が溶けかかったような・・・ヌルヌルトとして、そうそれは鼻水のような・・・。「まっプールだしそんなこともあるよな。」と、今の自分の置かれている状況を正当化しつつ前に進むと・・・次は、細かい赤い物体「???」何が何だか分らず泳いでいると・・・次はワカメ。「んっ!」私はよぎる不安と共に、そっ、それらから少しでも遠のこうと必死にUターン。しっ、しかし、この身体、中々前に進まないのです。頭を振り助けを求める合図。鈴が鳴ります。

「どっどうした!」

 訓練士は慌てて私を抱え上げました。私は大声で叫びました。

「先生!うっウンコが溶けたようなものが水中を漂ってるぅぅぅぅぅぅぅ」

 すると、訓練士は冷静な声で言いました。

「大声で言うなよぉ!網で掬ったんだけどなぁ・・・」

 どうやら午前中に失禁した人がいたようです。まっこの障害は仕方ないんですよ。ウンコ出るのも分らないし、我慢もできないし、この障害の宿命ですね。でも、ビックリでしたよ。(笑)

 プールから上がると身体を訓練士が洗ってくれます。発泡スチロールの敷物を敷いてくれ、素っ裸で寝かされます。歩ける人や他の人は平気で横を通ります。重度障害者にはプラバシーも何も無いんです。恥ずかしくて悲惨ですよ。でも、プール熱の原因のウィルスやらも有るし、前述したウンコもあるし、入院中は一週間に一度しか入浴できないし、洗ってもらえる時に奇麗に洗ってもらわないとね。

 洗ってもらったら着替えです。自力では出来ないし手伝ってもわねばなりません。入院中は看護婦が2、3人来て、着替えをさせてくれてくれました。

 素っ裸でベッドに寝かされて数人の手で着替えをさせてもらいます。ペニスにはコンドームを装着し集尿器を着けられてました。18歳の男の子ですよ。それが人の目の前で複数の人に全裸をさらして。で、医学的な話ですが、頚椎損傷っていうのは首で脊髄神経を傷つけているんです。なので、脳からの命令では勃起しないんです。しかし、ペニスというのは触覚で勃起するという性質があります。つまり、通常では、脳の興奮か触れられて勃起するんです。だから、着替えをさせてもらっていると勝手に・・・という状態です。18歳の男の子が人前で勃起した姿をあらわにして・・・。屈辱的ですよね。つらいですよね。それでも、重度障害者にはプライバシーはありません。

 しかし、ここで勘違いされると嫌なのでお世話になった病院と施設、そして職員の名誉の為にもちょっと説明しておきますね。そういう状態も現場の人の立場だと仕方ない部分もあるんです。それは日常業務も多く、そして重度障害者も多いんです。次から次に来るわけですから。皆汗びっしょりになって介助してくれています。又、施設の物理的な面でも難しいところがあるんですよ。

 で、施設の時はプール訓練の後はお風呂なんです。そのまま、大浴場へ。又ここが驚きの連続。入所して初めてお風呂にいったんです。

 すると、ここも更衣室いっぱいに全裸の重度障害者の山。素っ裸で自分で陰部すら隠せない人ばかり。自分で出来る人はそれを横目に通り過ぎて行きます。本当にプライバシーはありません。

 しかし、ここも現場の立場になれば仕方の無い事でもあります。それは理解できますけど・・・。しかし、そこで新たな発見をしました。人間って自分のは良く見るけども人のはそう見ないでしょ。でも、全裸の山ですから丸見えなんです。そこで私は自信が付きました。私のは標準でした。よくを言えば、あと3センチほど長さが欲しいのですが・・・。なんて、そんな話は横に置いといて。まっとにかく標準でした。で、大小色々あるんですけど、特に形はそう変わらないんですよね。しかし、一人だけ象の鼻のように先に行くに連れ細くなっている人がいました。根元が太くて先が細くて。でも、それが太いのなんのって。小柄な女性の手首はゆうにありましたね。そう言えばその人とは病院で隣のベッドだったんですが、ドクターが「こんなの初めてだぁ」と言ってたのを思い出しましたよ。まっとにかく、施設は目が点になる事ばかりでした。

 それにしても変な話をごめんなさいね。不快と誤解を感じている方もいらっしゃると思います。性格上開けっぴろげな者ですので、あくまでも医学的、個性の話とお許しください。PTAの人にお怒られるかな?まっクレームはメールにて。


第18話完