19.冬のトイレは辛かった。


 施設というのは色々驚く事ばかりでした。とにかく目が点になることばかりでしたね。

 時は流れ、秋、冬となりました。頚椎を損傷するとウンコが我慢出来ません。出るのも分らず、我慢も出来ません。なので、トイレコントロールをするのです。と言ってもそんなに簡単に行くはずもありません。人間の身体そんなに甘くありません。その日の食べの物、体調によります。しかし、コントロールするように頑張るのです。私の場合3日間隔位で便を出します。3日と言うと驚くかも知れませんがこの障害は便秘気味になるのです。なので、3日おきでトイレに座ります。時間としては1時間半。ひたすらトイレに座ります。

 座薬を入れ、20分。おならと共に便が出てきます。

「ねぇどのくらいでたぁ?」

 私が職員に尋ねます。

「う〜んコロコロしたのが手の平程度」

 職員が説明します。

「どうする?」

 職員が尋ねます。

「うぅ〜んどうするかぁ。穿ってもらおうかぁ」

 私は便を出す為に看護婦をお願いするのです。それは摘便という行為をするのです。腹筋も背筋も、括約筋も麻痺しているので自力で出せません。なので指を肛門に入れ便を掻き出すのです。この行為は医療行為なので看護婦、又はそのレベルの資格を持っている人間しか出来ません。

 1時間半が経ち、便もやれやれ終わります。そんな訳ですので冬のトイレは辛かった。タイル敷きのトイレです。足は麻痺で動かないので床が冷たくてもそのままです。足が徐々に冷たくなっていきます。しかも長時間のトイレの中では目まいすら催します。考えてみると1時間半といえば羽田から福岡まで行ける時間ですもんね。確かに辛くなるわけですよ。

 足が冷たくなったまま寝ると身体が寒くなります。足の冷たくなった血が体中を巡るからです。布団を何枚かけても身体がカタカタ震えます。本当に人間の身体は面白いものですね。しかし、それほど一生懸命トイレをしても出きらない時があります。その時は、ベッドに乗った時や次の朝に出てしまうのです。

「あ〜ぁ、あれだけ一生懸命トイレに居たのにぃなぁ」

 虚しさとウンコの臭いだけが残ります。
第19話完