21.ダメだぁ、ハンドルが廻らない!

 まず、一回目のトライは失敗。しかし、諦めずに訓練を続けました。数ヵ月後に再度チャレンジです。腕に力をつける為、錘を引いたり、坂を登ったり。一生懸命頑張りました。そして、そんな訓練も数ヶ月が経ち、二回目のトライになりました。しかし、あまりハンドル廻しにはさほどの変化はなく、心だけが焦りを感じていました。

 試験場へ行くと前回と同じ検査官。

「やぁどう?」

 私を覚えてくれていたようです。

 同行した作業療法士に試験用の運転席に座らせてもらい、ハンドルにノブを取り付け右手をはめます。

「じゃあ右に廻してみて」

 試験官が合図します。私は頭を振り、身体を倒しながら懸命にハンドルを廻そうとします。

(おっ重い・・・)

「んんん・・・」

 沈痛な面持ちで試験官が見つめます。

「次は左に廻して・・・」

 試験官の言葉が部屋に響きます。

 検査が終わりました。試験官が呟きます。

「ダメだなぁ。これだと免許あげられないよ」

 検査官の言葉が私の心に虚しく響きます。

「ハンドルが廻らなきゃ無理だよなぁ」

 検査官が続けました。そうです。今回もハンドルが廻らないのです。力は付いたはずなのに・・・。しかし、力というよりハンドルを廻す方向へ腕が動かないのです。

(ダメだ・・・)

 心の中で焦りだけが積もります。再び訓練あるのみです。

(頑張るしかないなぁ!・・・)

 焦りだけが前に進みます。しかし、心とは逆に相変わらずハンドルは廻りません。そんな事をしているうちに月日は流れます。当初よりはハンドルが廻るようになりましたが、試験場のハンドルが廻るかは分りません。そんなある日、作業療法士が切り出しました。

「濱ぁ そろそろまた入ってみるかぁ」

 私としては自信がありません。作業療法士もそれを知っています。しかし、お情けなのでしょうか。作業療法士は試験の日を決めました。

 再再度、試験の日になりました。施設が用意した送迎車に乗り込みます。私は試験場へ向かう車の中で色々と考えていました。実は私の中では今回も無理だと分っていました。ぼんやりと車窓から景色を眺めています。いつしか季節は冬に変わり、雪がチラついてきました。

「帰りは積もるかな」

 作業療法士が運転手と会話しています。

 私は、ぼんやり景色を見ながら聞いていました。そうこうしていると試験場に到着し検査官が来ました。

「やぁ〜また君かぁ」

 私の顔を覚えているようです。そう何度も来る人がいないのでしょうね。私はいつものように検査用の座席に乗せてもらいました。

「じゃあやってみよう!」

 試験官が合図します。


 結局、結果はダメでした。

「濱宮くん。もう君諦めたほうが良いよ。無理だよ。」

 試験官に説得されます。検査室のハンドルを廻せない私は言いました。

「お願いです。もう一度、もう一度だけお願いします。自分で車を買います。その車しか乗りません。その車で試験をさせて下さい。お願いします。」

 私は必死に懇願しました。

「分ったよ。じゃあもう一度だけ、次が最後だよ」

 そう言い残し、試験官は部屋から立ち去りました。

第21話完